ガイドベーンの閉鎖時間が、メーカーの設計値に入っていませんでした。閉じ側だけが遅い。まだ水を通していない、無水試験の段階です。
そのまま有水に進んでいたら、負荷遮断試験で回転数が想定以上に上がっていたはずです。水がない段階で時間を測っておく意味は、ここにあります。
調速機(GOV)は何をする装置か
調速機は、水車の回転速度を検出してガイドベーンの開度を調整し、周波数と出力を保つ装置です。回転が下がれば開き、上がれば閉じる。この繰り返しで速度を一定に保ちます。
ここで押さえておきたいのは、無水の段階では、その制御性能を見ることができないということです。水がなければ水車は回りません。回転しないのですから、回転速度に応じた制御が正しいかどうかは、そもそも試しようがありません。
では無水では何を見るのか。指令が正しく伝わり、機器が正しく応答するかまでです。開度の指令を出したら、ガイドベーンがそのとおりに動くか。全閉の信号を出したら、ちゃんと閉じきるか。その時間は設計どおりか。
この線引きを間違えると、試験が先に進みません。無水の段階で制御性能まで評価しようとしても、判断する材料がそろっていないからです。無水は「動くか」、有水は「うまく制御できるか」。この二段構えで進めます。
無水段階で確認する項目
| 確認項目 | 見るところ |
|---|---|
| 開度指令への追従 | 指令を出したとおりにガイドベーンが動くか |
| リミットの位置 | 全開・全閉のリミットが正しい位置で効くか |
| 手動操作 | 手動で開閉できるか |
| 非常停止時の動作 | 停止信号が入ったときに閉じるか |
| 開度表示の整合 | 開度計の指示と実際の開度が合っているか |
| 開閉速度 | 開閉にかかる時間が設計値を満たすか |
このうち、時間がかかるのは最後の開閉速度です。ほかの項目が「動くか、動かないか」で判定できるのに対して、開閉速度だけは数値で設計値と比べる必要があります。
開度は3か所を突き合わせる
開度の確認では、次の3か所を見ます。
- 実機の目盛
- 配電盤の表示
- ポテンショメータの出力

3か所を見るのには理由があります。記録に残るのは配電盤の表示とポテンショメータの出力ですが、実際に水を絞っているのは実機のガイドベーンです。
もし実機の目盛と表示がずれていれば、その後の試験で取る記録はすべて、ずれた値のまま積み上がります。有水に進んでから気づいても、無水で取った記録まで信用できなくなります。
だから、この突き合わせは早い段階でやっておきます。
開閉速度の測定
記録はメモリハイコーダで取り、あわせて人の手による測定も残します。波形データと、現場で確認した測定データ。この2本立てにしておくと、あとで値を疑ったときに照らし合わせられます。
測り方は有水のときと同じです。開き側・閉じ側それぞれの時間、デッドタイム、等価閉鎖時間。無水だからといって簡略化はしません。同じ測り方で取るからこそ、有水に進んだあとで値を比べられます。
なお等価閉鎖時間は、始点を全開ではなく測定時の開度から取ります。この読み方については負荷遮断試験の記事で図を使って説明しています。
判定はメーカーの設計値です。設計値は水圧上昇や速度上昇の計算から決まっているので、こちらで「だいたい合っていればよい」と判断するものではありません。入っているか、入っていないか。それだけです。
設計値に入らなかったときの調整
実際にあった話です。
測定すると、閉じ側の時間が設計値より遅い。開き側は問題なく、閉じ側だけが遅れていました。
調整は、油圧の絞り弁で行います。ガイドベーンはサーボモータの油圧で動くので、その油の流れを絞れば遅くなり、開ければ速くなります。
絞り弁が付いているのは、配圧弁の排油側です。サーボモータに送り込む圧油ではなく、サーボモータから押し出されてタンクへ戻っていく油を絞っています。そして開く用と閉じる用が1つずつ、別々に付いています。

別々になっているので、閉じる側だけを調整できます。今回のように開き側は問題なく閉じ側だけが遅いときは、閉じる用の絞り弁だけを触ればよく、開く速さには影響しません。絞り弁を調整して、再度測定する。設計値に入るまでこれを繰り返します。

なぜ閉じ側の遅れが問題なのか
閉じ側が遅いままだと、負荷遮断のときに回転数が上昇します。
負荷遮断は、発電機が系統から切り離される現象です。それまで電気を起こすことに使われていた水のエネルギーが、行き場を失って回転を上げる方向に働きます。これを止めるのがガイドベーンの閉鎖です。
閉じるのが遅ければ、その間ずっと水が入り続けます。回転は上がり続けます。設計値は、この上昇が保証値に収まるように決められています。「少しくらい遅くても」が通らないのは、そのためです。
負荷遮断そのものの手順は負荷遮断試験とは|水車発電機を1/4から全負荷まで段階的に確認する手順にまとめています。
そして、この調整を無水のうちにやれたことに意味があります。有水に進んでから負荷遮断で気づいたのでは、水を張った状態で調整し、もう一度試験をやり直すことになります。手戻りの大きさが違います。
この試験でやらないこと
範囲をはっきりさせておきます。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 油圧装置(ポンプ・圧油槽・圧力スイッチなど)の確認 | 別の試験項目として実施 |
| 油圧低下時の動作確認 | 有水で実施 |
| 速度調定率などの整定値 | 整定はこちらで決めない。動作の確認まで |
整定値については、決める立場と確認する立場を分けて考えています。整定そのものはメーカーや設計側の領域で、現地試験で見るのは「その整定どおりに動くか」です。ここを混ぜると、責任の所在があいまいになります。
有水では何が変わるか
水を通すと、実際に水車が回ります。ここで初めて、回転の制御がうまくできるかを確認できます。
有水では、次の各段階で回転数制御を見ていきます。
- 起動
- 無負荷運転
- 並列制御
- 負荷投入
- 負荷遮断
このなかで一番重要なのが負荷遮断の制御です。系統から切り離された瞬間に、調速機がどう振る舞うか。回転がどこまで上がって、どう収束するか。
そして、ここでもう一度スピード調整をすることがあります。水圧や回転の実際の挙動を見て、絞り弁を触り直す。
つまり、無水で行う調整は最終形ではありません。設計値に入れるところまでを無水で済ませ、実際の水と回転を見ながら詰めるのが有水。この二段階だと思って進めると、無水の段階で完璧を求めすぎずに済みます。
まとめ
無水段階の調速機の試験は、「動くか」を確かめる作業です。開度指令への追従、リミットの位置、手動操作、非常停止時の閉鎖、開度表示の整合、そして開閉速度。
このうち開閉速度だけは、設計値という明確な基準があります。とくに閉じ側は、負荷遮断時の回転上昇に直結します。遅ければ、油圧の絞り弁で調整して、設計値に入るまで測り直す。
水がない段階でここまで詰めておくと、有水に進んだあとの手戻りが減ります。そして有水では、実際の水と回転を見ながら最後の調整をする。無水と有水は、そういう役割分担になっています。
工程全体の中でこの試験がどこに位置するかは、無水試験とは|水力発電所で水を通す前に行う試験の全体像と項目一覧にまとめています。水を通したあとの流れは有水試験とは|水を通してから行う試験の流れと確認する項目をご覧ください。
関連記事:負荷遮断試験/故障停止試験/水車入口弁の動作試験


コメント