漏れ電流Io・Ior・Igrの違い|クランプメータでの測り方と現場での見方

クランプメータの使い方の記事のアイキャッチ画像。漏れ電流のベクトル図で合成漏れ電流Ioが抵抗分Iorと静電容量分Iocから求まることを示し、負荷電流の測定、三相とNの一括クランプによるIoの測定、位相演算によるIorの測定という3つのクランプ方法を並べている。 測定器の使い方

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点検用紙の漏れ電流欄を埋めてはいるものの、その数値が何を意味するのか説明できない。

結論から言えば、Ioは漏れ電流の合計、Iorはそのうち絶縁劣化によるぶんだけを取り出した値です。Ioが高くても絶縁が正常なことは珍しくありません。

クランプメータの基本的な使い方をおさらいする

クランプメータは電線の電流が作る磁界を検出して値を読みます。検出方式はCT方式(交流専用)とホール素子方式(直流も測定可)の2つです。

押さえるべきは挟み方です。負荷電流は電線を1本だけ、漏れ電流は回路の電線を全線一括で挟みます。この使い分けが以降すべての出発点です。

クランプメータの挟み方の比較図。左は負荷電流の測定で電線1本だけをジョーで挟み表示は12.5A、右は漏れ電流の測定で電線2本を一括で挟み表示は0.03mA。
図:挟み方の違い。負荷電流は1本だけ、漏れ電流は全線一括で挟む。

ジョー(クランプ部)の中央に電線を置き、確実に閉じます。ずれると値が狂います。

負荷電流用のクランプメータと漏れ電流用のリーククランプは別物です。mA単位にはリーククランプが必要です。

普段は横河の30032Aを使い、点検で測るのはIoまでです。先輩から必ず言われるのは隣接電線からの誘導への注意。変圧器の近くで測ったとき、誘導で数値が引っ張られました。

漏れ電流は、漏れ電流用のクランプメータで測ります。負荷電流用のクランプメータでは、値が小さすぎて読めません。

漏れ電流Ioとは何か、なぜ測るのか

全線一括で挟むと、行きと帰りの電流のベクトル和はゼロになるはずです。ゼロでなければ差分が漏れています。これが漏れ電流Io(対地漏れ電流)です。漏れた電流は接地線を通って戻るため、接地抵抗が高い回路では、漏れていてもIoが小さく出ることがあります。

最大の利点は、停電させずに絶縁状態を確認できることです。絶縁抵抗測定は回路を止める必要があり、稼働中の設備には向きません。ただし活線作業のため、保護具を着用し、有資格者が行ってください。

判定の目安として1mAという値があり、電気設備技術基準の解釈で定められています。ただし実務では1mAを下限としつつ、平常値と比べる傾向管理が重要です。前回0.2mAが0.8mAなら、基準内でも何かが起きています。

判定値は社内・客先の独自基準を使っています。1mAをそのまま当てはめる運用ではありません。現場ごとに基準が違うので、点検前に確認してください。

基準値以下でも、前回値と比べて増えていないかは必ず見ます。

IoとIorの違い

Io・Ior・Iocの違いを一覧で整理する

Ioは単一の成分ではありません。抵抗分であるIor(抵抗分漏れ電流)と、対地静電容量分であるIoc(静電容量分漏れ電流)を合成したものです。

記号名称中身絶縁不良との関係
Io対地漏れ電流IorとIocの合成(ベクトル和)高くても絶縁不良とは限らない
Ior抵抗分漏れ電流絶縁抵抗の低下で流れる分これが増えていれば絶縁不良
Ioc静電容量分漏れ電流対地静電容量で流れる分絶縁が正常でも常に流れる
Igr抵抗分漏れ電流(Igr方式)低い周波数の信号を重ねて求めた抵抗分見たいものはIorと同じ。測り方が違う

Io・Ior・Iocの関係は直角三角形で表せます。横軸にIor、縦軸にIocを取り、斜辺がIoです。両者は位相が90度ずれるため、単純な足し算ではなくベクトル和になります。

漏れ電流のベクトル図。横軸が抵抗分Ior、縦軸が静電容量分Ioc、斜辺が合成漏れ電流Io。Io=√(Ior²+Ioc²)
図:Io・Ior・Iocの関係。IorとIocは位相が90度ずれるため、合成はベクトル和になる。

Iocはなぜ流れるのか

ここが肝心です。Iocは絶縁不良で流れるものではありません。ノイズフィルタやケーブルの対地静電容量など、機器の構造上どうしても流れる成分です。つまりIoが高くても、中身がIocなら絶縁は正常です。

感電や漏電火災に直結するのは抵抗分のIorです。絶縁が劣化すると大地への抵抗が下がり、Iorが増えます。見るべきはこちらです。なお、漏電遮断器はIoに反応するため、静電容量分の多い設備では不要動作の原因にもなります。

Ioだけを見ると何を見誤るか

典型的なのはインバータ設備です。ノイズフィルタの静電容量分でIoだけが高く出て、絶縁を疑って調べても異常が見つからない、という状況が起こります。

数字で見るとはっきりします。ある設備でIoが50 mAあったとします。基準の1 mAを大きく超えているので、Ioだけを見れば絶縁不良です。

ところがIorを測ると2 mAでした。残りの約50 mAはIoc、つまりノイズフィルタやケーブルの対地静電容量で流れている分です。この設備の絶縁は劣化していません。Ioだけを見て絶縁を疑えば、原因のない調査に何日も使うことになります。

逆のパターンもあります。Ioが3 mAと小さくても、内訳がIor = 2.9 mA、Ioc ≒ 0.8 mAであれば、漏れているぶんのほとんどが抵抗分です。絶縁は着実に劣化しています。数値の大きさより、中身が何かのほうが重要です。

漏れ電流の内訳が異なる2つのケースを比較したベクトル図。左はIoが50 mAと大きいが、内訳は抵抗分Iorが2 mA、静電容量分Iocが約50 mAで、三角形は縦に細長くなる。インバータのノイズフィルタなどで流れる分であり、絶縁は劣化していない。右はIoが3 mAと小さいが、内訳は抵抗分Iorが2.9 mA、静電容量分Iocが約0.8 mAで、三角形は横に寝た形になる。こちらは絶縁が劣化しており、Ioだけを見ると見逃す。見るべきは大きさではなく、中身がIorかIocかである。なお左右で三角形のスケールは異なる。

Igrとは|Iorとの違い

IoとIorに並んで、「Igr」という言葉を目にすることもあります。Igrも、絶縁抵抗の低下で流れる抵抗分の漏れ電流を見る、という目的はIorと同じです。違うのは測り方です。

Ior方式は、漏れ電流と回路の電圧を一緒に測り、電圧と同じ位相の成分を取り出して抵抗分を求めます。手持ちのリーククランプで測れるのは、こちらの方式です。

Igr方式は、B種接地線に商用周波数とは別の低い周波数の信号を重ねて流し、その周波数の電流から抵抗分を求めます。主に、盤に常設する絶縁監視装置で使われている方式です。

手元のクランプで測った値はIor、監視装置の表示はIgr、ということがあります。値を比べるときは、どの方式で測った値なのかを先に確かめます。方式の違う値を並べても、正しい判断はできません。

Iorの測定方法と機器の選び方

Iorを分離するには、基準となる電圧が必要です。電圧の位相を基準に電流との位相角θを求め、ベクトル演算で抵抗分だけを取り出すからです。

手順は次のとおりです。

  • 対象回路の電線を全線一括でクランプする(Io測定と同じ)
  • 電圧クリップを電源側に接続する
  • 単相か三相か、機種の設定を切り替える
  • 測定値を読み取る

Io測定と違うのは、電圧クリップの接続と単相・三相の設定切替です。切り替えを忘れると正しい値になりません。

機器選びでは位相精度が効きます。位相角θが90度に近いほど、つまり容量分の多い設備ほど、位相の誤差がIorの誤差として大きく出ます。高周波成分を含む設備では、商用周波数(50/60Hz)成分だけを抽出するフィルタ機能があると安定します。

クランプメータの種類と測れるもの

種類測れるもの電圧クリップ
負荷電流用クランプメータ負荷電流(A単位)不要
リーククランプ負荷電流とIo(mA単位)不要
Ior対応クランプ負荷電流、Io、Ior必要

点検でIoまでしか測らないのであれば、リーククランプで足ります。Iorまで分離したい場合にだけ、電圧クリップを接続できる機種が必要になります。

Ior対応機には共立電気計器のKEW 5001や、マルチ計測器のIorMAXシリーズがあります。対応方式や確度はメーカー仕様書で確認してください。

三相回路を測るときは、測定器の設定が三相になっているかを確認してから測ります。

私が現場で使っているリーククランプ(横河 30032A)

私が普段の点検で使っているのは、横河計測のリーククランプテスタ 30032A です。Ior対応機ではなく、負荷電流とIoまでを測る機種です。

このシリーズには30031A・30032A・30032Bの3機種があり、30032Aは高調波除去フィルタを搭載したタイプです。フィルタの効果は劇的というほどではありませんが、多少は違いが出るため、私は常にONの状態で使っています。

使っていて良いと感じているのは、本体が小型で取り回しがしやすい点です。狭い場所でも比較的無理なく測定できます。漏れ電流の測定は分電盤や制御盤の中で行うことが多いので、この扱いやすさは日々の作業で効いてきます。

一方で、長く使う場合に注意している点もあります。クランプの噛み合わせが、経年で少しずつ悪くなってくることです。

mA単位の漏れ電流を測るときは、クランプの合わせ面にわずかな隙間や汚れがあるだけで、測定値が不安定になります。負荷電流をA単位で測るときには気づかない程度のずれでも、Ioの測定では無視できません。値がふらつくときは、まずクランプを開閉して確実に閉じているかを確認し、合わせ面に異物が付いていないかを見るようにしています。

これは30032Aに限った話ではなく、リーククランプ全般に言えることです。購入するときよりも、使い続けるときに気をつけたい点だと考えています。

なお、上位機の30032Bは測定値をBluetoothで転送できます。点検記録を書き写す手間を減らしたい場合は選択肢になりますが、私は使っていないため使用感までは分かりません。

30032Aを取り扱っている販売店です。産業用の測定器のため、在庫や価格は販売店によって差があります。

横河計測 リーククランプテスタ 30032A

横河計測 リーククランプテスタ 30032A

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Yahoo!ショッピングで見る

ほかの測定器をどう使い分けているかは、現場で使う電気計測器の使い分けにまとめています。

回路を止められるときは、メガーで回路を切り分けて漏電の場所を探すこともできます。手順は漏電の調べ方に書いています。

まとめ

挟み方の使い分けが出発点です。負荷電流は1本だけ、漏れ電流は全線一括。ここを間違えると測定が成立しません。

Ioが高いことは絶縁不良を意味しません。中身がIorかIocかで判断が変わります。

数値は単発で見ず、同じ設備の平常値と比べてください。変化の方向を追うことが早期発見につながります。

私自身も普段の運用はIoまでです。いきなりIorまで踏み込まなくても構いません。まずIoを正しく測り、平常値を積み上げるところから始めれば十分です。

点検用紙を埋める作業から一歩進み、その数値がなぜ良いのか悪いのかを説明できるようになると、現場の見え方が変わります。

電気ライオン

水力発電所で、電気設備の保守と現地試験を担当しています。経験は10年ほど。
継電器試験、無水・有水試験、測定器の使い方など、自分の手でやってきたことだけを書いています。
電験三種、第一種電気工事士、1級電気工事施工管理技士、消防設備士甲種第4類。

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