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点検用紙の漏れ電流欄を埋めてはいるものの、その数値が何を意味するのか説明できない。
結論から言えば、Ioは漏れ電流の合計、Iorはそのうち絶縁劣化によるぶんだけを取り出した値です。Ioが高くても絶縁が正常なことは珍しくありません。
クランプメータの基本的な使い方をおさらいする
クランプメータは電線の電流が作る磁界を検出して値を読みます。検出方式はCT方式(交流専用)とホール素子方式(直流も測定可)の2つです。
押さえるべきは挟み方です。負荷電流は電線を1本だけ、漏れ電流は回路の電線を全線一括で挟みます。この使い分けが以降すべての出発点です。

ジョー(クランプ部)の中央に電線を置き、確実に閉じます。ずれると値が狂います。
負荷電流用のクランプメータと漏れ電流用のリーククランプは別物です。mA単位にはリーククランプが必要です。
普段は横河の30032Aを使い、点検で測るのはIoまでです。先輩から必ず言われるのは隣接電線からの誘導への注意。変圧器の近くで測ったとき、誘導で数値が引っ張られました。
漏れ電流は、漏れ電流用のクランプメータで測ります。負荷電流用のクランプメータでは、値が小さすぎて読めません。
漏れ電流Ioとは何か、なぜ測るのか
全線一括で挟むと、行きと帰りの電流のベクトル和はゼロになるはずです。ゼロでなければ差分が漏れています。これが漏れ電流Io(対地漏れ電流)です。漏れた電流は接地線を通って戻るため、接地抵抗が高い回路では、漏れていてもIoが小さく出ることがあります。
最大の利点は、停電させずに絶縁状態を確認できることです。絶縁抵抗測定は回路を止める必要があり、稼働中の設備には向きません。ただし活線作業のため、保護具を着用し、有資格者が行ってください。
判定の目安として1mAという値があり、電気設備技術基準の解釈で定められています。ただし実務では1mAを下限としつつ、平常値と比べる傾向管理が重要です。前回0.2mAが0.8mAなら、基準内でも何かが起きています。
判定値は社内・客先の独自基準を使っています。1mAをそのまま当てはめる運用ではありません。現場ごとに基準が違うので、点検前に確認してください。
基準値以下でも、前回値と比べて増えていないかは必ず見ます。
IoとIorの違い
Io・Ior・Iocの違いを一覧で整理する
Ioは単一の成分ではありません。抵抗分であるIor(抵抗分漏れ電流)と、対地静電容量分であるIoc(静電容量分漏れ電流)を合成したものです。
| 記号 | 名称 | 中身 | 絶縁不良との関係 |
|---|---|---|---|
| Io | 対地漏れ電流 | IorとIocの合成(ベクトル和) | 高くても絶縁不良とは限らない |
| Ior | 抵抗分漏れ電流 | 絶縁抵抗の低下で流れる分 | これが増えていれば絶縁不良 |
| Ioc | 静電容量分漏れ電流 | 対地静電容量で流れる分 | 絶縁が正常でも常に流れる |
| Igr | 抵抗分漏れ電流(Igr方式) | 低い周波数の信号を重ねて求めた抵抗分 | 見たいものはIorと同じ。測り方が違う |
Io・Ior・Iocの関係は直角三角形で表せます。横軸にIor、縦軸にIocを取り、斜辺がIoです。両者は位相が90度ずれるため、単純な足し算ではなくベクトル和になります。

Iocはなぜ流れるのか
ここが肝心です。Iocは絶縁不良で流れるものではありません。ノイズフィルタやケーブルの対地静電容量など、機器の構造上どうしても流れる成分です。つまりIoが高くても、中身がIocなら絶縁は正常です。
感電や漏電火災に直結するのは抵抗分のIorです。絶縁が劣化すると大地への抵抗が下がり、Iorが増えます。見るべきはこちらです。なお、漏電遮断器はIoに反応するため、静電容量分の多い設備では不要動作の原因にもなります。
Ioだけを見ると何を見誤るか
典型的なのはインバータ設備です。ノイズフィルタの静電容量分でIoだけが高く出て、絶縁を疑って調べても異常が見つからない、という状況が起こります。
数字で見るとはっきりします。ある設備でIoが50 mAあったとします。基準の1 mAを大きく超えているので、Ioだけを見れば絶縁不良です。
ところがIorを測ると2 mAでした。残りの約50 mAはIoc、つまりノイズフィルタやケーブルの対地静電容量で流れている分です。この設備の絶縁は劣化していません。Ioだけを見て絶縁を疑えば、原因のない調査に何日も使うことになります。
逆のパターンもあります。Ioが3 mAと小さくても、内訳がIor = 2.9 mA、Ioc ≒ 0.8 mAであれば、漏れているぶんのほとんどが抵抗分です。絶縁は着実に劣化しています。数値の大きさより、中身が何かのほうが重要です。

Igrとは|Iorとの違い
IoとIorに並んで、「Igr」という言葉を目にすることもあります。Igrも、絶縁抵抗の低下で流れる抵抗分の漏れ電流を見る、という目的はIorと同じです。違うのは測り方です。
Ior方式は、漏れ電流と回路の電圧を一緒に測り、電圧と同じ位相の成分を取り出して抵抗分を求めます。手持ちのリーククランプで測れるのは、こちらの方式です。
Igr方式は、B種接地線に商用周波数とは別の低い周波数の信号を重ねて流し、その周波数の電流から抵抗分を求めます。主に、盤に常設する絶縁監視装置で使われている方式です。
手元のクランプで測った値はIor、監視装置の表示はIgr、ということがあります。値を比べるときは、どの方式で測った値なのかを先に確かめます。方式の違う値を並べても、正しい判断はできません。
Iorの測定方法と機器の選び方
Iorを分離するには、基準となる電圧が必要です。電圧の位相を基準に電流との位相角θを求め、ベクトル演算で抵抗分だけを取り出すからです。
手順は次のとおりです。
- 対象回路の電線を全線一括でクランプする(Io測定と同じ)
- 電圧クリップを電源側に接続する
- 単相か三相か、機種の設定を切り替える
- 測定値を読み取る
Io測定と違うのは、電圧クリップの接続と単相・三相の設定切替です。切り替えを忘れると正しい値になりません。
機器選びでは位相精度が効きます。位相角θが90度に近いほど、つまり容量分の多い設備ほど、位相の誤差がIorの誤差として大きく出ます。高周波成分を含む設備では、商用周波数(50/60Hz)成分だけを抽出するフィルタ機能があると安定します。
クランプメータの種類と測れるもの
| 種類 | 測れるもの | 電圧クリップ |
|---|---|---|
| 負荷電流用クランプメータ | 負荷電流(A単位) | 不要 |
| リーククランプ | 負荷電流とIo(mA単位) | 不要 |
| Ior対応クランプ | 負荷電流、Io、Ior | 必要 |
点検でIoまでしか測らないのであれば、リーククランプで足ります。Iorまで分離したい場合にだけ、電圧クリップを接続できる機種が必要になります。
Ior対応機には共立電気計器のKEW 5001や、マルチ計測器のIorMAXシリーズがあります。対応方式や確度はメーカー仕様書で確認してください。
三相回路を測るときは、測定器の設定が三相になっているかを確認してから測ります。
私が現場で使っているリーククランプ(横河 30032A)
私が普段の点検で使っているのは、横河計測のリーククランプテスタ 30032A です。Ior対応機ではなく、負荷電流とIoまでを測る機種です。
このシリーズには30031A・30032A・30032Bの3機種があり、30032Aは高調波除去フィルタを搭載したタイプです。フィルタの効果は劇的というほどではありませんが、多少は違いが出るため、私は常にONの状態で使っています。
使っていて良いと感じているのは、本体が小型で取り回しがしやすい点です。狭い場所でも比較的無理なく測定できます。漏れ電流の測定は分電盤や制御盤の中で行うことが多いので、この扱いやすさは日々の作業で効いてきます。
一方で、長く使う場合に注意している点もあります。クランプの噛み合わせが、経年で少しずつ悪くなってくることです。
mA単位の漏れ電流を測るときは、クランプの合わせ面にわずかな隙間や汚れがあるだけで、測定値が不安定になります。負荷電流をA単位で測るときには気づかない程度のずれでも、Ioの測定では無視できません。値がふらつくときは、まずクランプを開閉して確実に閉じているかを確認し、合わせ面に異物が付いていないかを見るようにしています。
これは30032Aに限った話ではなく、リーククランプ全般に言えることです。購入するときよりも、使い続けるときに気をつけたい点だと考えています。
なお、上位機の30032Bは測定値をBluetoothで転送できます。点検記録を書き写す手間を減らしたい場合は選択肢になりますが、私は使っていないため使用感までは分かりません。
30032Aを取り扱っている販売店です。産業用の測定器のため、在庫や価格は販売店によって差があります。
ほかの測定器をどう使い分けているかは、現場で使う電気計測器の使い分けにまとめています。
回路を止められるときは、メガーで回路を切り分けて漏電の場所を探すこともできます。手順は漏電の調べ方に書いています。
まとめ
挟み方の使い分けが出発点です。負荷電流は1本だけ、漏れ電流は全線一括。ここを間違えると測定が成立しません。
Ioが高いことは絶縁不良を意味しません。中身がIorかIocかで判断が変わります。
数値は単発で見ず、同じ設備の平常値と比べてください。変化の方向を追うことが早期発見につながります。
私自身も普段の運用はIoまでです。いきなりIorまで踏み込まなくても構いません。まずIoを正しく測り、平常値を積み上げるところから始めれば十分です。
点検用紙を埋める作業から一歩進み、その数値がなぜ良いのか悪いのかを説明できるようになると、現場の見え方が変わります。


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