現場に入ったものの、いま自分がどの工程にいるのかが掴めない。目の前の試験が全体のどこに位置するのか分からない。そんな若手技術者に向けた記事です。水力発電所の試験は大きく無水試験と有水試験に分かれます。この記事では無水試験を軸に、据付完了から営業運転までの流れを一望できるように整理します。
無水試験とは何か
この章でわかること:無水試験の定義と、有水試験との関係。
無水試験とは、水車に水を通さない状態で行う現地試験です。機器の据付が完了したあと、水圧管路に水を入れる前の段階で実施します。
対になる言葉が有水試験です。こちらは水を通し、実際に水車を回した状態で行います。名前のとおり、水があるかないかで分けているだけの、素直な区分です。
工場試験との違いも押さえておいてください。工場試験は機器単体が仕様どおりに作られているかを見ます。対して現地試験は、その機器が実際に据え付けられ、制御盤や系統とつながった状態で意図どおり動くかを見ます。単体では正常な機器でも、配線を間違えれば動きません。現地でしか確認できない領域があるということです。
よくある失敗:工場試験の成績書が良好であることをもって、現地でも問題ないと考えることです。
なぜ水を通す前に確認するのか
この章でわかること:無水の段階を設けている3つの理由。
順番を逆にして、先に水を入れてから確認すればよさそうにも思えます。しかしそうしない理由があります。
1つ目は、止められなくなるからです。通水後に異常が起きたとき、機械を安全に止める必要があります。ところがその停止手順そのものが、まだ検証されていません。止める仕組みの正しさを確認しないまま水を入れるのは、ブレーキを試さずに走り出すのと同じです。
2つ目は、原因の切り分けが難しくなるからです。水を通せば、流水、回転、振動、発熱がいっぺんに加わります。この状態で不具合が出ると、電気的な問題なのか機械的な問題なのか、切り分けに時間がかかります。無水であれば条件が少ないぶん、原因は絞りやすくなります。
3つ目は、手戻りが高くつくからです。充水したあとで単純な配線ミスが見つかれば、水を抜くところからやり直しになります。工程にも費用にも跳ね返ります。
つまり無水試験は、条件が単純なうちに、単純な間違いを潰しきる工程だといえます。
よくある失敗:工程に追われて無水段階の確認を駆け足で済ませ、通水後に配線の間違いが出ることです。
試験全体の流れ
この章でわかること:据付から営業運転までの5段階。
全体像を整理すると次のようになります。
| 段階 | 状態 | 主な試験 |
|---|---|---|
| 無水試験 ① 据付後の基礎確認 | 無水 | 絶縁抵抗測定、接地抵抗測定、耐電圧試験 |
| 無水試験 ② 単体試験 | 無水 | 入口弁などの動作試験、遮断器・開閉器関係試験、検出器の確認、保護継電器の単体試験、GOV・AVRの動作確認 |
| 無水試験 ③ 無水総合試験 | 無水 | 警報表示試験、停止区分の確認、起動・停止・故障シーケンスの模擬 |
| 充水・初回転 | 有水 | 充水、ゴロ廻し(初回転) |
| 有水試験 | 有水 | 並列投入試験、自動起動停止試験、負荷遮断試験、非常停止試験、振動・騒音測定 |
①から③までが無水試験、そのあとの充水・初回転と有水試験が、水を通してから行う試験です。
この順番には理由があります。まず1台ずつ、次につないだ状態で、最後に水と負荷をかけて確かめる、という並びになっています。
いきなり全部をまとめて動かすと、不具合が出たときにどこが悪いのか分かりません。1台ずつなら原因はその機器の中にあります。つないだ状態で初めて出たのなら、機器そのものではなく配線や設定を疑えます。確かめる範囲を少しずつ広げていくから、問題が出た場所を絞り込めるわけです。
そして、どの段階も前の段階が済んでいることが前提になります。動かない機器を残したまま総合試験に進んでも、そこで出た不具合が機器のせいなのか、つなぎ方のせいなのか判断できません。
よくある失敗:単体試験が終わっていない機器を含んだまま、総合試験に進んでしまうことです。

無水試験に含まれる主な項目
この章でわかること:それぞれの試験が何を確認しているか。
絶縁抵抗測定・接地抵抗測定
据付直後にまず行う、基礎的な確認です。絶縁が保たれているか、接地が規定値に収まっているかを見ます。ここが不良のまま先へ進むと、以降のすべての試験が意味を失います。
詳細は絶縁抵抗測定の記事と接地抵抗測定の記事で解説しています。
耐電圧試験
絶縁抵抗測定より高い電圧を規定の時間加えて、絶縁が破壊しないことを確認します。絶縁抵抗測定が「いまどれだけ絶縁が保たれているか」を測るのに対し、耐電圧試験は「規定の電圧ストレスに耐えられるか」を確かめる試験です。目的が違うため、どちらか一方では代替できません。
保護継電器の単体試験
OCR、DGR、UVRなどの継電器が、整定値どおりに動作するかを個別に確認します。全体像は保護継電器試験の基礎で、具体的な手順は誘導形OCRとDGRの記事で扱っています。
計装機器の校正
圧力、温度、水位などの計装機器が正しい値を示すかを確認します。手順はキャリブレータを使った校正の記事にまとめています。
検出器の確認試験
回転速度、水位、温度などの検出器が、正しく信号を出しているかを確認します。回転速度についてはスピードセンサーの試験方法で、周波数の模擬入力の方法まで解説しています。
主要機器・遮断器の動作試験
入口弁、バイパス弁など、実際に動く機器の開閉動作と時間を確認します。開閉速度の調整もこの段階で行います。
遮断器や開閉器についても、投入と引外しの動作、そして補助接点が状態を正しく伝えているかを確認します。ここが不良だと、継電器が正しく動作しても遮断まで至りません。
GOV(調速機)とAVR(自動電圧調整器)の確認
GOVは回転速度を検出してニードルやデフレクタの開度を調整し、周波数と出力を保つ装置です。無水の段階では、開度指令に対して実際に機器が動くか、スピード調整の設定が意図どおりかを確認します。
AVRは界磁電流を調整して発電機の端子電圧を一定に保つ装置です。励磁装置一式を組み合わせた状態での動作確認が、無水段階での対象になります。
どちらも水と回転がなければ本来の制御性能までは見られません。無水段階で確認するのは、指令が正しく伝わり、機器が正しく応答するかまでです。
よくある失敗:無水段階で制御性能まで評価しようとして、判断がつかないまま時間を使うことです。
無水総合試験とは
この章でわかること:単体試験との違いと、確認する範囲。
単体試験が終わったあとに行うのが無水総合試験です。ここで見るのは、機器そのものではなく機器どうしのつなぎ方です。ある機器が出した信号が、正しい相手に届いているか。そして機械全体が、設計した順番どおりに動くか。この2つを確かめます。
具体的には、起動シーケンス、停止シーケンス、そして故障時のシーケンスを模擬します。実際に故障が起きていない状態で条件を作り、機械が設計どおりの順序で動くかを見るわけです。
警報表示試験と停止区分の確認も、この段階に入ります。故障の種類ごとに非常停止(86-1)、急停止(86-2)、警報のどれに割り付けられているかを一つずつ確かめます。停止区分の考え方は水車発電機の停止区分の記事で整理しています。
大事なのは、1台ずつ合格していても、つないだ状態で合格するとは限らないことです。継電器が正しく動作しても、そこから遮断器までの配線が切れていれば遮断はできません。機器は正常、でも設備としては機能しない。この状態を見つけるのが総合試験です。この考え方は保護継電器試験の連動試験とまったく同じです。
よくある失敗:単体試験の成績が良好だったことを理由に、総合試験の項目を間引くことです。
無水の段階で徹底する意味
この章でわかること:実際に無水試験で見つかった不具合の例。
以前担当した発電所で、警報表示試験のケース数が180ありました。すべて流した結果、PLCの設定間違いがいくつか見つかりました。本来は急停止に割り付けられるべき故障が、警報の扱いになっていたのです。
厄介なのは、書類の上では何も間違っていない点です。設計は正しく、機器も正常で、ずれているのは実機に書き込まれた設定値だけでした。警報の表示自体は問題なく出るので、信号が届くかどうかだけを見ていたら素通りしていたはずです。
もしそのまま有水試験に進んでいたら、水を入れて回している機械に、止まらない故障モードが残っていたことになります。詳しい経緯は停止区分の記事に書きました。
無水試験を省かずに流す意味は、ここにあります。水がない状態でしか、落ち着いて全ケースを確認することはできません。
よくある失敗:ケース数の多さを理由に、似た警報をまとめて省略することです。
有水試験へどうつながるか
この章でわかること:無水試験の次に何が待っているか。
無水試験が完了すると、いよいよ水を入れます。
まず充水を行い、続いてゴロ廻しと呼ばれる初回転に移ります。水車を初めて回す段階です。ここで振動や異音、軸受温度など、回してみなければ分からない項目を確認します。
その後はGOV・AVR調整試験を行い、並列投入試験で系統につなぎます。続いて自動起動停止試験、負荷遮断試験、故障停止試験と進みます。負荷遮断試験では、負荷を切った瞬間の回転速度上昇や水圧の変動を測定します。
注目したいのは、無水段階で確認した内容が、そのまま有水段階で再確認されることです。停止区分は故障停止試験で、GOV・AVRの制御は負荷遮断試験で、それぞれ本番の条件にさらされます。無水試験は有水試験の予行演習であり、同時にその前提条件でもあります。
ここまで通って、ようやく営業運転に入ります。
よくある失敗:無水試験の記録を残さず、有水試験で異常が出たときに比較対象がない状態になることです。
まとめ
この章でわかること:全体の要約と、工程ごとの関連記事。
水力発電所の試験は、1台ずつ確かめ、つないだ状態で確かめ、最後に水と負荷をかけて確かめる、というように、確認する範囲を少しずつ広げていく構造になっています。
- 無水試験:水を通さず、単純な条件のうちに単純な間違いを潰す
- 無水総合試験:機器どうしのつなぎ方を見る。信号が正しい相手に届き、設計した順番どおりに動くかを確認する
- 有水試験:水と負荷を加え、本番の条件で最終確認する
いま自分がどの工程にいるかが分かると、目の前の作業の意味が変わります。単体試験をしているなら、その機器が保証されていなければ次に進めないということです。総合試験をしているなら、単体では見えなかったつながりを見ているということです。
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② 単体試験
保護継電器試験の基礎/誘導形OCRの試験手順/DGR試験の手順/漏電遮断器(ELCB)の試験方法/キャリブレータによる校正/スピードセンサーの試験方法
③ 無水総合試験
水車発電機の停止区分と警報表示試験


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