誘導形OCRの試験手順|円板形過電流継電器の実践ガイド

誘導形OCRの試験手順の記事のアイキャッチ画像。盤に取り付けられた誘導形過電流継電器と、出力電流3.50A・動作時間1.25秒を表示する試験器。試験の流れを準備、試験実施、判定・記録の3ステップで示している。 電気の基礎

試験器の操作は先輩に任せ、自分は記録係。円板が回るのは見ているけれど、何を測っているのかは説明できない。そんな若手技術者に向けた記事です。誘導形(円板形)OCR(過電流継電器)の試験を、動作原理から最小動作電流試験、限時特性試験、連動試験、後始末までひととおり追います。静止形・デジタル形は構造も手順も変わるため、別記事で扱います。

誘導形OCRの動作原理を先に押さえる

この章でわかること:円板が回る仕組みと、タップ・レバーが何を決めているか。

誘導形OCRは、円板が回転することで動作する継電器です。CT(変流器)から入った電流がコイルを流れ、円板に渦電流を生じさせます。渦電流と磁束の作用で円板に回転力が生まれ、電流が大きいほど速く回ります。円板が一定角度まで回ると接点が閉じ、遮断器へトリップ指令が出ます。

円板型過電流リレーの構造図。動作コイルとくま取りコイルが作る磁界でアルミ円板に渦電流が生じ、回転力が発生する。円板が回ると可動接点が固定接点に閉じ、トリップ信号が送出される。

ここから反限時特性、つまり電流が大きいほど動作時間が短くなる性質が生まれます。

設定は2つあります。電流タップ(整定タップ)は、円板が回り始める電流値を決めます。時限レバー(タイムダイヤル)は円板の初期位置、つまり接点に達するまでの回転角度を決めます。角度が小さいほど早く接点へ届きます。動作電流はタップ、動作時間はレバーという対応です。

瞬時要素は別の機構です。円板ではなく電磁石で直接接点を動かし、大電流で時間をおかず動作します。限時要素とは独立しているため、試験も分けます。

誘導形は機械的に動く継電器です。円板の汚れ、軸受の摩擦、接点の荒れが、そのまま動作値と動作時間に表れます。これが試験を行う実務上の意味です。

よくある失敗:タップとレバーを混同し、動作時間を変えるつもりでタップを動かすことです。

試験前の準備と安全確認

この章でわかること:試験前に記録すべきものと、結線までの手順。

準備で最も重要なのは整定値の記録です。電流タップ、時限レバー、瞬時要素の設定を、試験前に必ず控えます。帳票に書くだけでなく写真も残してください。試験中に設定を動かすことがあり、戻す根拠になるのは試験前の記録だけです。

安全確認の項目は次のとおりです。

  • CT二次側を短絡する(開放したまま一次電流が流れると高電圧が発生する)
  • 切離し端子(試験端子)を操作し、試験中の信号が遮断器へ伝わらないようにする
  • 停電範囲を確認し、関係者へ周知する
  • 有資格者が作業し、保護具を着用する

これらがなぜ必要かという背景は、親記事保護継電器試験の基礎|なぜ行い、何を試験するのかで扱っています。

結線は、試験器の電流出力を継電器の電流回路へ、継電器の動作接点を試験器の検出入力へつなぎます。接点が無電圧か有電圧かを確認してから取り込みます。ここを取り違えると、円板は回っているのに試験器が動作を検出しない、という状態になります。

結線が終わったら目視確認です。円板の回転面に埃や異物がないか、円板が引っかからずに動くか、接点の表面が荒れていないかを見ます。

内部の清掃はハケで行っています。接点抵抗が高いときは、接点みがきで手入れをします。

よくある失敗:整定値を記録せずに試験を始め、終わってから元の値が分からなくなることです。

最小動作電流試験

この章でわかること:最小動作電流の測り方と、復帰値を見る意味。

最小動作電流試験は、整定タップどおりの電流で円板が回り始め、接点が閉じるかを見る試験です。手順は次のとおりです。

  • 試験器の出力を0から始める
  • 電流を一定の速さでゆっくり上げていく
  • 円板が回転を始める点を確認する
  • 接点が閉じたときの電流値を読み、記録する
  • 電流を下げ、円板が復帰する電流値を読む

肝は電流の上げ方です。速すぎると円板の追従が遅れ、実際より高い値で動作したように見えます。遅すぎれば読み取りに時間がかかり、コイルが加熱します。一定の速さで滑らかに上げられるかどうかが、測定の正確さを決めます。

復帰値は動作値より低い値になります。この関係を復帰率と呼びます。復帰値が極端に低い場合、一度動作したあと戻りにくい状態を示しており、軸受の摩擦や可動部の引っかかりを疑う手がかりになります。

判定は整定表とメーカー資料で確認します。許容範囲は機種と整定によって異なるため、覚えている数値をそのまま当てはめないでください。

値がばらつく、円板が途中で止まる、動き出しが鈍いといった症状が出たときは、試験器の設定より先に継電器の状態を疑います。円板の汚れ、埃の堆積、軸受の摩擦増加が典型的な原因です。

試験電源には無ひずみ試験機を使っています。電流を滑らかに上げられるので、動き出しの点を読む作業がやりやすい機器です。手入れをしている範囲では、動作値が大きくばらついた経験はありません。

よくある失敗:電流を勢いよく上げてしまい、実際より高い動作値を記録することです。

限時特性試験と瞬時要素試験

この章でわかること:特性曲線との照合手順と、曲線から外れたときの見方。

限時特性試験では、整定タップ値の倍数で電流を印加し、接点が閉じるまでの時間を測ります。複数の倍数で測るのが基本です。手順は次のとおりです。

  • 試験電流を整定タップの倍数に設定する
  • 電流を印加すると同時にタイマを起動する
  • 接点が閉じた時点の時間を読み、記録する
  • 電流を切り、円板が完全に復帰するのを待つ
  • 次の倍数へ移る

円板の復帰を待つ理由は2つあります。1つは、途中の位置から始めると回転角度が足りず、実際より短い動作時間が出てしまうこと。もう1つはコイルの加熱です。連続して動作させると温度が上がり、特性が変化します。1点ごとに間をあけてください。

反限時特性の概念図。横軸は整定タップの倍数、縦軸は動作時間。電流が大きいほど動作時間が短くなる右下がりの曲線を2本示し、時限レバーの設定で曲線が上下に移動することを表している。

測定した各点は特性曲線と照合します。合否だけでなく、外れた方向に意味があります。すべての点が遅い側へそろって外れていれば、可動部の摩擦増加が疑われます。特定の倍数だけ外れるなら、接点や機構の局所的な問題を考えます。

外れたときに疑う順序は、円板と軸受の汚れ、可動部の固着、時限レバー位置のずれ、接点の荒れです。

動作時間が曲線から外れていたことがあります。整定より遅い側でした。応急措置としてタイムダイヤルを動かし、整定時間に合うところへ調整しています。ただしこれは時間を合わせただけで、遅くなった原因は残っています。変更した内容は必ず記録し、報告して次回の点検につなげます。

瞬時要素は円板とは別の機構なので、独立して試験します。電流を上げ、動作する電流値を測ります。限時要素より大きな電流を流すため、印加は短時間で切ります。

瞬時要素の動作値を超える領域では、円板が回りきる前に瞬時要素が先に動作します。この境目が保護協調の一部を作ります。

瞬時要素は毎回、動作の有無まで確認しています。電流値が大きいため、印加は短時間で切り上げる進め方です。

よくある失敗:円板が復帰しきる前に次の測定を始め、実際より短い動作時間を記録することです。

連動試験と後始末

この章でわかること:連動試験の確認範囲と、後始末で外せない手順。

連動試験は、継電器の接点が閉じてから遮断器が実際に開くまでを一連で確認する試験です。特性試験に合格しても、接点から先の配線、端子、トリップコイル、補助リレーのどこかが切れていれば、保護は成立しません。地絡側の継電器であるDGRの試験については、DGR試験の手順|GRとの違いと位相特性試験の読み方で扱っています。

  • 切離し端子を通常の状態へ戻す
  • 継電器が動作する電流を印加する
  • 遮断器が開放することを確認する
  • 表示灯、警報、記録装置の動作を確認する

遮断器が開かないときは、まず継電器の接点が閉じているかを確認します。閉じているなら原因は下流です。端子の緩み、配線の断線、トリップコイルの不良を順に追います。

後始末は次の順で行います。整定値を試験前の記録どおりに戻す、切離し端子を復旧する、CT二次側の短絡を解除する、端子の締付を確認する。ここを飛ばすと、保護設定を変えたまま設備を運転させることになります。

試験記録はExcelの様式に記入しています。整定値の戻しは、ダブルチェックに加えて操作表と突き合わせる運用です。

成績書は前回値と並べて残してください。合否だけを見ていると、少しずつ遅くなっているという変化を見落とします。

記録係のうちにできることがあります。円板の動きと数値の対応を、自分の目で見ておいてください。

よくある失敗:整定値を戻したつもりで、操作表と突き合わせずに現場を離れることです。

まとめ|円板の動きと数値をつなげて見る

誘導形OCRの試験は、原理を知らないままでも手順どおりに進められてしまいます。差が出るのは、値が合わなかったときです。何を疑い、どこから見るかは、円板がどう回っているかを分かっているかどうかで決まります。全体を振り返ります。

  • 動作原理:電流タップが動作電流を、時限レバーが動作時間を決める。この対応を取り違えない。
  • 試験前の準備:整定値を帳票と写真の両方で記録する。CT二次側の短絡と切離し端子の操作を、通電前に確認する。
  • 最小動作電流試験:電流は一定の速さで滑らかに上げる。復帰値もあわせて読み、可動部の状態を推し量る。
  • 限時特性試験:1点ごとに円板を完全に復帰させてから次へ移る。曲線から外れた方向が原因を絞り込む手がかりになる。
  • 瞬時要素試験:限時要素とは別の機構として独立に測る。電流が大きいため印加は短時間で切る。
  • 連動試験:接点から遮断器までを一連で確認する。開かないときは継電器の接点を見てから下流へ順に追う。
  • 後始末:整定値の復元、切離し端子の復旧、CT二次側短絡の解除、端子の締付確認。操作表と突き合わせるまでが試験です。

誘導形は機械的に動く継電器です。だからこそ、汚れや摩擦といった状態の変化が数値に素直に表れます。試験は合否を出す作業であると同時に、その機器がどう変化してきたかを読む作業でもあります。

試験を行う理由や、ほかの継電器で何を確認するのかは、親記事保護継電器試験の基礎|なぜ行い、何を試験するのかでまとめています。静止形・デジタル形のOCRは構造も手順も異なるため、別記事で改めて取り上げます。

記録係として立ち会ううちに、円板の動きと帳票に書いた数値が頭の中でつながってくれば、次に試験器の前に立つときの見え方は変わっているはずです。

北陸を拠点に、水力発電所の保守を中心とした電気の仕事に10年以上携わっています。保有資格は第一種電気工事士/第二種電気工事士/1級電気工事施工管理技士/第三種電気主任技術者(電験三種)/消防設備士甲種第4類。「難しそうな電気の話を、身近に」をモットーに、測定器の使い方や試験手順など、現場で確かめてきたことを発信しています。

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